大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 平成6年(行ツ)93号 判決 1994年7月14日

兵庫県西宮市下大市東町一三〇番地の二

上告人

橋本健二

右訴訟代理人弁護士

酒井正之

同弁理士

岸本瑛之助

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 高島章

右当事者間の東京高等裁判所平成四年(行ケ)第一〇二号審決取消請求事件について、同裁判所が平成六年二月一五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人酒井正之、同岸本瑛之助の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 小野幹雄 裁判官 大白勝 裁判官 高橋久子)

(平成六年(行ツ)第九三号 上告人 橋本健二)

上告代理人酒井正之、同岸本瑛之助の上告理由

原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな重要事項について理由に齟齬がある。

原判決には、審決取消事由の個々の点について多くの誤りがあるが、とりわけ問題とすべきものは、原判決に言う「前判決」(甲第七号証)とそこで認定されている前審決引用例2(甲第六号証)と本件引用例2(甲第五号証)に対する重大な事実誤認である。

すなわち、前判決引用例2と本件引用例2とは技術的構成において全く軌を一にしているのであるが、それにも拘らず原判決は前判決とまるきり反対の結論を導くという誤りを犯している。

原判決は、審決が引用例1(甲第四号証)記載の発明のパンティに、臀部形状にピッタリするように本件引用例2記載の考案のパンティの臀部片と股間片との縫着構成部分(間隙の構成)の特徴を適用することは当業者にとって容易であると判断したことの誤りについての上告人の主張に対して、次のように認定した。

「前判決によれば、前判決においては、前審決引用例2記載の発明のパンティに後股上布と股間を覆う布との縫合によるゆとり以外にゆとりのあることや当該ゆとりと他のゆとりとの関係は何ら認定されていない。

したがって、前判決がした引用例1記載の発明と前審決引用例2の各技術の結付きの可否についての判断は、あくまで、引用例1記載の発明と、他のゆとりとの協働関係について何らの示唆がなく、またその構成も引用例2記載の考案とは相違する前審決引用例2記載の発明との関係においてのみされたものであり、一般論として、パンティの上側からゆとりを形成する技術と下側からゆとりを形成する技術とは相いれないと判断したものでないことは明らかである(そのような判断は技術常識に反する。)。

これに対し、引用例2記載の考案のパンティの間隙の構成によるゆとりの形成は、前認定のとおり、パンティの上部からのゆとりの形成と技術的に相いれないものではなく、むしろ、上部からゆとりの形成の技術とあいまって臀部当接部に平均的なゆとりをもたせ、臀部形状にピッタリとさせているものである。

したがって、審決が新たに引用例2を引用し、引用例1記載の発明のパンティに引用例2記載の考案のパンティの間隙の構成を適用することは当業者にとって容易であると判断したことは、何ら前判決の判断と矛盾するものではない。

よって、審決の<3>の判断にも誤りはない。」(原判決四五頁三行~四六頁八行)

しかしながら、右認定は誤りである。

その理由は、左記のとおりである。

別紙図面1は、本件引用例2記載の考案のパンティ(以下「前者」という)の第1図であり、別紙図面2は、前審決引用例2(甲第六号証)記載の発明のパンティ(以下「後者」という)の第1図を、別紙図面1に対応するように描き直したものであり、その構成自体は元のものと異ならない。

ところで、前者の前身形成片8が一枚ものであるのに対し、後者では、前者の前身形成片に相当するものが、左右前股上布1、1として二枚に分かれている点を除き、前者と後者とは、複数の布片で臀部形状にピッタリとさせるパンティを形成するうえで軌を一にする技術思想に基づくものであること、両者の図面を比較してみれば、一見して明らかである。

ただ、パンティの間隙が、前者では、漸増しているのに対し、後者では、急増している点で差はあるものの、この差は、パンティ着用時、前者では、後身中央片1と股間当接片5との縫合部が左右両臀部間の最下端よりはるか上方位置にくるのに対し、後者では、後股上布11と股下布21との縫合部が左右両臀部間の下端付近に位置するからに過ぎない。

原判決は、「前判決においては、前審決引用例2記載の発明のパンティに後股上布と股間を覆う布との縫合によるゆとり以外にゆとりのあることや当該ゆとりと他のゆとりとの関係は何ら認定されていない。」という。

前者の「他のゆとり」に相当するものは「凸曲縁の構成による滑らかな膨み13、13」(原判決四一頁二~三行)のことであるが、これに相当するものが後者に存在することは、前審決引用例2の「縫製を終ると、前股上1と後股上11の縫合線は後方の両ヒップ上に縦状にヒップラインを形成し、ヒップライン上に突出状のヒップトップを形成する」(甲第六号証三頁七~九行)との記載から明らかである。

ところで、前判決(甲第七号証)によれば、「第二引用例の間隙は、縫製後またざき状に左右に開かれた後股上布11の裾縫V字線15の両側部分が、ヒップライン上に突出状のヒップトップを形成するためのゆとりを下側からもたせる機能を有すると認められる。」

(甲第七号証三六三頁右欄三一~三五行)とし、さらに「本願第一発明の間隙と第二引用例の間隙とは、前記のとおり、その機能及び技術的意義が相違している。」(甲第七号証三六五頁右欄一七~一九行)としている。右記載のゆとりを下側からもたせる機能を有するには、左右前股上布1のヒップ裁断線2と、後股上布11のヒップ裁断線12とは、ともに凸曲縁状でなければならず、両ヒップ裁断線2、12を突き合わせたさいヒップポイント3、13の下方に隙間が生じていなければならない。だからこそ、「本願第一発明の間隙と、第二引用例の間隙とは、……技術的意義が相違している。」と判示しているのであり、後者につき、後股上布と股間を覆う布(股下布)との縫合によるゆとり以外にゆとりのあることや当該ゆとりと他のゆとりとの関係に言及する必要は何らないのである。

原判決は、右に続いて「したがって、前判決がした引用例1記載の発明と前審決引用例2の各技術の結付きの可否についての判断は、あくまで、引用例1記載の発明と、他のゆとりとの協働関係について何らの示唆がなく」(原判決四五頁七~一〇行)という。

しかしながら、どうして「したがって」なのか明らかでないばかりでなく、「引用例1記載の発明と、他のゆとりとの協働関係」とは一体何を指すのかも不明である。

もちろん、原判決のいうように、前判決は「一般論として、パンティの上側からゆとりを形成する技術と下側からゆとりを形成する技術とは相いれないと判断したものでない」(原判決四五頁一二~一五行)のであって、本願第一発明の間隙と前審決引用例2の間隙とが、機能及び技術的意義において相違しているから、「外方に突出した左右両臀部を包む生地のゆとりを臀部片の上側から得ている第一引用例の技術と、後股上布の下側から得ている第二引用例の技術とは元来結び付かない」(甲第七号証三六六頁右欄一三~一七行)としているのである。

前者の間隙は、中央線に向って幅が漸増する間隙ではあるが、縫製後左右に開かれた後身中央片1の曲線縁2の両側部分がヒップライン上に突出状のヒップトップを形成するためのゆとりを下側からもたせる機能を有することは、後者と異なるところがない。したがって、本願第一発明の間隙と前者の間隙とは、その機能と技術的意義が相違しているのであり、その意味において、外方に突出した左右両臀部を包む生地のゆとりを臀部片の上側から得ている引用例1の技術と、後身中央片の下側から得ている本件引用例2の技術とは元来結び付かないものである。

したがって、審決が新たに本件引用例2を引用し、引用例1記載の発明のパンティに本件引用例2記載の考案の間隙の構成を適用することは当業者にとって容易であると判断したことは、前判決の判断と矛盾するにもかかわらず、審決の判断に誤りはないとした原判決の理由には、右のとおり齟齬がある。

以上の次第で原判決は違法であり、破棄されるべきである。

以上

別紙図面 1

<省略>

別紙図面 2

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例